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緩和治療の臨床研究における対象患者の死亡等に関する取り扱いについて

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共同代表理事の山口です。
  
特に緩和治療の臨床研究においては、被験者は原病の悪化とともに状態が悪化するため、研究の実施中に重篤な有害事象(死亡例等)が多数発生することが想定されます。試験治療とは無関係の原病の悪化による死亡等に関する重篤な有害事象を頻繁に報告・評価することは、臨床研究の実施に影響を及ぼすだけではなく、真に重要な重篤な有害事象を見逃す可能性も生じえます。適用される規制要件、研究デザインなどに応じ、安全性情報を適切に管理することがまずは重要です。その上で、原病の悪化による死亡が発生することが予測される場合には、あらかじめ、個別のプロトコルで緊急報告の対象外と定めるなどの方策をとる必要があります。緊急報告の対象外とする有害事象の状態や事象は試験ごとに検討し、プロトコルに明記します。緊急報告の対象外と規定された以外の重篤な有害事象が発生した場合には規定の期日内に報告を行います。また、被験者の脱落を考慮したサンプルサイズ設計などの研究デザインの考慮を行います。

支持療法・緩和治療の臨床試験デザインについては、国立がん研究センター中央病院支持療法開発センターにて日本医療研究開発機構の支援(革新的がん医療実用化研究事業「支持/緩和治療領域研究の方法論確立に関する研究」(研究開発代表者:全田 貞幹 国立がん研究センター東病院 放射線治療科 医長))を受け作成された、「支持療法・緩和治療領域研究ポリシー(総論)」(以下、ポリシー)にまとめられています。筆者は作成者の一人であるため、本稿では、同ポリシーで関連する部分を引用し、基本的な方針や考え方について述べさせていただきます。建設的なご意見をいただけますと幸いです。

本邦における臨床試験・臨床研究をとりまく規制要件については、昨今様々な法律や指針が発出・改訂され、臨床研究・臨床試験の変革が起こっています。お作法を最低限踏まえつつ(必要に応じては、関連文書の改訂等の提案を含めて)、緩和領域のセッティングに応じた、より柔軟で実践的なアプローチを取ることを個人的には望んでおります。臨床研究の科学性と倫理性を損なわずに。

以下、ポリシーから。

7. 対象患者の死亡に関する取り扱い

7.1 背景
 臨床研究実施中に頻発する重篤な有害事象(Serious Adverse Event: SAE)を適切に評価することは、安全性と効率性の両面において重要である。SAEはまれな事象であることが前提とされているため、SAEが実施医療機関にて発生した場合には、倫理委員会や独立データモニタリング委員会等に、速やかかつ詳細に報告を行うことが求められる。
一方、緩和治療の臨床研究においては、被験者は原病の悪化とともに状態が悪化するため、研究の実施中にSAE(死亡例)が多数発生することが想定される。研究治療とは無関係の原病の悪化による死亡に関するSAEを頻繁に報告・評価することは、臨床研究の実施に影響を及ぼすだけではなく、真に重要なSAEを見逃す可能性も生じうる。

7.2 安全性情報の管理
 原病の悪化による死亡が発生することが予測される場合には、あらかじめ、個別のプロトコールで緊急報告の対象外と定めることとする。緊急報告の対象外とする有害事象の状態や事象は試験ごとに検討し、プロトコールに明記する。緊急報告の対象外と規定された以外のSAEが発生した場合には規定の期日内に報告を行う。
原病の悪化による死亡をプロトコールで緊急報告の対象外と定める場合、施設研究責任者により次の要件をすべて満たされていることを必須とする。
・死亡が予期されるものであったかの評価
・死亡が原病の悪化によるものであることの確定
・カルテ等の診療文書の確認
すなわち、死亡が予期されるものであり、かつ、明らかに原病の悪化によるものであり、かつ、カルテ等の診療文書に状況が明確に記録されていることが確認された場合に限り、緊急報告の対象外となる。緊急報告の対象外とされた原病の悪化による死亡は、CRFで情報を収集し、データセンターが独立データモニタリング委員会に報告して審査を受ける。

7.3 試験デザイン
 緩和治療のがん臨床試験において約4割の被験者が死亡などの原因により途中脱落するという知見があり、被験者の脱落を考慮したサンプルサイズ設計などの研究デザインの考慮が必要である。解析においても、患者の脱落等に結論が影響を受けにくい解析方法、あるいは、脱落理由(データの欠測理由)を十分考慮した解析方法の適用が望まれる。特に死亡患者の取り扱いについては、通常の欠測データ解析の考え方とは異なるアプローチが必要であり、解析対象集団の選択も含めて注意を要する。

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