共同代表理事の山口です。
患者の症状、全般的な精神状態、または疾患や状態が患者の機能に与える影響の評価など、臨床研究において用いられる臨床的な評価は Clinical Outcome Assessments( #COA 、臨床アウトカム評価)と呼ばれます。COAは以下の4つに分類されます。臨床研究で用いるアウトカムによっては、1つ以上の下記分類に属するものもあります。
Patient-reported outcomes (PROs)
Clinician-reported outcomes (ClinROs)
Observer-reported outcomes (ObsROs)
Performance outcomes (PerfOs)
患者報告アウトカム ( #PRO )
PROは、「患者の回答について、臨床医や他の誰の解釈も介さず、患者から直接得られる患者の健康状態に関するすべての報告である」と定義されている(ISPOR日本部会ワーキンググループの訳による)。よく使用されるPROとしては、がん領域で症状評価に用いられる「MD Anderson Symptom Inventory: MDASI」や、QOL評価に用いられる「EORTC QLQ-C30」などが挙げられる。
医療者が評価したアウトカム (ClinRO)
PROが患者からの直接的な回答であるのに対し、ClinROは医療従事者による患者の症状などの評価を指す。がん領域で代表的なものとしては、「ECOG Performance Status」や「Common Terminology Criteria for Adverse Events」などが挙げられる。
介護者が評価したアウトカム (ObsRO)
患者本人または医療従事者以外の者による観察に基づいた評価による測定を指す。代表的にはPediatric Quality of Life Inventory™などの小児向けの評価法などがあります。また、がん領域で使用される「Edmonton Symptom Assessment System Revised: ESAS-r」は、ObsROとしても、PROとしても使用されます。
パフォーマンスアウトカム (PerfO)
医療者の指示によるパフォーマンスを評価する方法であります。これは例えば6分間歩行検査(6-minute walk test: 6MWT)のように、医療者の指示・管理下で6分間歩行していただき、その距離を測定するようなアウトカムを指す。
これまで何度もご紹介させていただきましたが、
臨床アウトカム評価のなかで、患者中心の臨床開発という観点から注目を浴びたのが、患者報告アウトカム (PRO) でした。実際にPRO を用いた臨床研究は年々増加しています。医薬品行政という観点からは、4団体 (European Regulatory Issues on Quality-of-Life Assessment (ERIQA), International Society of Pharmacoeconomic and Outcomes Research (ISPOR), Pharmaceutical Research and Manufacturers of America (PhRMA) Health Outcomes Committee (HOC), International Society of Quality of Life (ISOQOL)) が医薬品開発におけるHRQOL(Health Related QOL、健康関連QOL)評価に関するガイダンスを作成するも、内容にばらつきがありました。2000年 HRQL Harmonization meetingと称する会議を4団体の代表とFDAの担当者で開催し、新たなハーモナイゼーション会議を設立、その範囲をPROにまで広げました。PRO Harmonization Group設立に4団体が同意しました。FDAはオブザーバーとして当初から関与、アドバイスをしています。
2009年にFDAからGuidance for Industry Patient-Reported Outcome Measures: use in medical Product Development to Support Labeling Claims が発出され、PROの利用促進に大きな転機となりました。
同ガイダンスにおいて、
・PROとは、患者の回答について、臨床医や他の誰の解釈も介さず、患者から直接得られる患者の健康状態に関するすべての報告であります。
・アウトカムは、絶対的な事項(例えば、症状の重症度、徴候、疾病の状態)または、以前の測定からの変化として測定することができる。
・臨床試験において、PRO 尺度は、1 つ以上の概念(すなわち、測定された何らかのもの、例えば、症状や症候群、特定機能や機能群に対する効果、または、健康状態の重症度を示す症候群や機能群などの測定対象)に対する医療介入の効果を測定するために使用することができる。
・一般に、適切にデザインされた研究で明確に定義された信頼性の高いPRO尺度で測定された所見は、適応申請の範囲が、尺度の測定能力と矛盾がない場合、医薬品/医療機器の適応申請に使用することができる。
ことが明記されました。2016年には、EMAからもPROに関するガイダンスである Appendix 2 to the guideline on the evaluation of anticancer medicinal products in man The use of patient-reported outcome (PRO) measures in oncology studies が発出されました。EMAからは既に2005年には Reflection Paper on the Regulatory Guidance for the Use of Health-Related Quality of Life Measures in the Evaluation of Medicinal Products が発行されていましたが、ガイダンスまでに至りませんでした。本邦においては、いまだ同様のガイダンス等はありません。
FDAは Clinical Outcome Assessment Qualification Program という、COAの資格化を始めています。医薬品開発における臨床試験において確立したアウトカム評価を用いることで、承認申請、最終的な効能・効果の取得のプロセスがより円滑化され、開発をより効率的に進めることが可能となります。このような背景を受け、PROを中心としたCOAの資格化を推進するため、適切な利害関係者との共通の枠組みを確立し維持することを目的に、C-Pathにより、CDERと製薬企業を中心としたPROのコンソーシアムが立ち上がりました。同組織はいくつかのワーキンググループから成り立っており、非小細胞肺がんグループが中心となり Non-Small Cell Lung Cancer Symptom Assessment Questionnaire (NSCLC-SAQ) というPROが認定されています。