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がん臨床試験における代替エンドポイントについて

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共同代表理事の山口です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
    
先日のブログにて、米国食品医薬品局 (FDA) が、インテンシブな化学療法を受けた新規の急性骨髄性白血病患者に対する代替エンドポイント(surrogate endpoint サロゲートエンドポイント)について声明を出したことを紹介しました。完全寛解率および無イベント生存期間が全生存期間と相関し、したがって代替エンドポイントとしての価値があることを確認しています。この重要な声明は、患者さんに安全で有効な治療法を届けるための臨床試験のタイムラインの短縮につながるはずです。
https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.21.02762?s=03
    
全生存期間 (overall survival; OS) など、臨床上最も重要なエンドポイント(評価項目)は、真のエンドポイント (true endpoint) と呼ばれます。がんの標準治療を決めるような臨床試験においては、本来はOSを主要エンドポイントにすべきでしょうが(FDAの関連ガイダンスなど)、他のエンドポイントに比して調べるのに時間がかかるなど問題もあります。一方で、真のエンドポイントの代わりとなるエンドポイントは代替エンドポイントと呼ばれます。調べるのが簡単で早く、かつ、真のエンドポイントを十分予測できれば有用と考えられます。近年は、より有効かつ安全と考えられる治療法を早期に患者さんに届けるため、承認審査に係る検証的ながん臨床試験(第Ⅲ相試験)での主要エンドポイントにおいては、OSでなくProgression Free Survival (PFS、無増悪生存期間) などの代替エンドポイントが広く用いられるようになってきました。
※PFSなどの用語の定義や説明については、例えば、以下をご参照ください。
https://oncolo.jp/dictionary/pfs2
  
しかしながら、あくまで代替ですから、真のエンドポイントであるOSを十分に予測できる必要があります。この検証には統計学的に非常に高度な方法論が必要です。古くは、大腸癌補助化学療法のメタアナリシスなどにより3(5)年Disease Free Survival (DSF) が3(5)年OSの良い代替エンドポイントであることの証明がSargentらによってなされて以来、いくつかの癌種、治療セッティングにおいて証明がなされてきておりますが、未だ未だです。FBで紹介したエディトリアル、および、実際に代替性を検証した論文にあるように、規制当局であるFDAがこのような問題に積極的に取り組み、より有効かつ安全な治療法がより早く患者さんに届けられるわけですから、非常に評価されるべきであり、本邦が遅れをとっているところでもあります。
  
一方で、米国における抗がん剤アバスチンの乳がんに対する適応削除(2011年11月に削除、本邦では2011年9月に承認)については、未だ記憶に新しいところです。E2100試験、AVADO試験、RIBBON1試験など、承認時に評価された主要評価項目であるPFSで差が認められたものの、その後のデータでOSで差が認められませんでした。Cortesは治療のクロスオーバー(別の群の治療法に切り替える)や後治療の影響をこれらの原因として指摘しています。昨今、抗がん剤の承認申請においては、PFSなどの代替エンドポイントに基づく承認事例が増えているものの、全生存期間を評価することは重要です。しかしながら、増悪後に治療のクロスオーバーや後治療が実施されると、全生存期間に対してその影響は否定できなくなる可能性があります。2次治療以降に有効な後治療が存在すれば、Post-Progression Survival (PSS) が延長され、全生存期間における群間差は縮まる可能性があることが指摘されており、無増悪生存期間の全生存期間に対する代替性は薄まります。PFSの改善が大きく優れたrisk/benefit のプロファイルなら(さらに経済的に許容できるなら)無増悪生存期間による承認はあり得るでしょうが、これら治療のクロスオーバーや後治療の影響を考慮したうえで、治療法を比較する方法論もいくつか提案されており、今後も規制当局の対応に注目したいと思います。

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