がん患者は病気の疑いが見つかったときから多くの悩みに直面します。その悩みはそれぞれ違うし、その悩みを解決するための支援制度も人により変わってきます。今回は、闘病生活の支えになる支援制度を時系列的に解説したいと思います。
がん患者が抱える様々な不安
がん患者の抱える不安は病気だけでなく、様々な不安を抱えています。
がんの治療ために病院に行くことは、不安の原因である病気の治療をするためなので、大事であることは疑う余地はありません。しかし、がんのように闘病生活が長く続く病気の場合は、がんを起因とした悩みや不安を解消しながら生活していくことが、広義のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上に繋がるはずです。
しかし、病院に治療に行くだけでは、病気以外の不安を解消させることはできません。
治療以外の悩みや不安はどうしたらいい?
治療以外の悩みや不安はどのように解消させればいいのでしょうか?
主治医はがん治療については専門家ですが、治療以外については専門家ではありません。現状ではその相談場所が明確でないため、適切な時期に適切な支援を受けることができないがん患者さんがたくさんいます。
基本的には、がん相談支援センターに自ら足を運ぶのが一番近道です。そこから、さらに必要であればそれぞれの専門家につないでくれる支援体制が理想です。しかし、がん相談支援センターのレベルは個々の相談員であったり、病院により差があるのも事実です。また、がん相談支援センターになかなか足を運びづらいと思っている方も多いと思います。
仕事のことであれば、病院だけの判断ではなく会社側の判断も大事になってきます。障害年金のような公的支援制度であれば、自ら申請しなければならず、知らなければ申請できません。
支援制度を知ることで、悩みや不安の解決に繋がる可能性もあるので時系列的に紹介していこうと思います。
全体図
告知〜治療開始
告知後のこころの動揺が激しいことは、「がん罹患に関わるこころの動き」をみてもらえばわかると思います。この時期は、精神的に落ち込み、正常な判断に支障をきたすおそれがあります。特に働いている人においては退職という重要な判断をするべきではありません。会社を辞めることはいつでもできます。退職してしまうことにより、その後使用できる支援を受けれなくなる可能性があります。まずは、がんになったショックから立ち直る時間が必要です。少し落ち着いてきたら、有給日数の確認や就業規則を確認して、自分の会社の休職制度などを調べましょう。就業規則を見てもわからないことは、人事労務担当者に聞くと良いでしょう。
罹患したすべての人がすべきことは、自身の医療保険制度の確認です。どの医療保険かにより、受けることができる給付や問い合わせ先が変わってきます。医療保険により受けることができる給付一覧はこちらです。
高額療養費制度と限度額適用認定証はどの医療保険制度でも使用できますが、70歳未満と70歳以上では金額が変わってきますので注意してください。健康保険組合に加入の方は付加給付制度があると、長い療養が必要だとしても医療費が高くならずに済むのでとても便利だと思います。付加給付制度は被保険者だけなく被扶養者でも適用される場合が多いです。
傷病手当金は目的が収入補償なので被保険者本人のみが対象です。支給開始から1年6ヶ月間の収入がないときに使える制度ですが、同じ傷病では一度しか使えないので、どのタイミングで使用するかは、よく考えたほうがいいと思います。
生活が苦しいときに使える制度もあげておきました。こちらにあげている制度は治療のすべての時期において、使用できる可能性があるので参照してください。「がん患者が使える支援制度」に説明のリンクを貼っておきました。
治療開始〜休職〜復職
この時期は働いている人にとっては、治療と仕事の両立が必要になってきます。治療と仕事の両立で難しいところは、それぞれの会社の就労支援体制や風土などが違うところや、患者、主治医、会社(産業医等の産業保健スタッフ)との連携が必要なことです。主治医と産業医ではそれぞれ立場が違います。図にすると次のとおりです。
産業医 | 主治医 | |
労働者 事業者 |
サービス対象 | 患者 |
企業 | 所属 | 医療機関 |
疾病予防 就労支援 安全配慮義務支援 |
目的 | 病気の治療・軽快 |
適正配置意見 (作業環境・作業・健康管理) |
業務 | 検査・診断・治癒 |
中立 | 立場 | 患者・家族側 |
出典:両立支援コーディネーターマニュアル
がん患者が治療と仕事の両立をしていくためには、主治医と会社(産業医等の産業保健スタッフ)に必要な情報を伝える必要があります。主治医は患者がどのような労働環境で働いているかをしっかり知る必要があります。会社側はがんになった従業員に何を配慮して、何に気をつけて働いてもらうかを知る必要があります。仕事が原因で病気が悪化した場合は、会社側の安全配慮義務が問われる可能性があるためです。
がん患者が治療と仕事の両立をするためには上図のようなトライアングルサポートが必要となってきます。そのために主治医と会社(産業医等の産業保健スタッフ)との連携を支援してくれる、病院内のがん相談支援センターにいるメディカルソーシャルワーカーのような両立支援をする相談員を活用するのもの一つの方法だと思います。さらにそこから労働基準法のような専門的な知識が必要な場合は、私のような社会保険労務士を活用するのもいいと思います。
必要な情報を伝えるツールとして「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(令和え3年3月かい改訂版)」にある診断書フォームを利用すると伝わりやすいと思います。
以下に様式例のリンクを張っておきます。
実際に上記の診断書フォームを使った両立支援例が「企業・医療機関連携マニュアル」にありますので参照してください。
障害がある場合に使える支援制度としては障害年金や障害者手帳、障害者総合支援法に基づくサービスなどがあります。特に障害年金については当サイトでも詳しく説明しているので参照してください。
退職〜自宅療養〜ターミナルケア
治療と仕事の両立が継続できることがいいのですが、残念ながら病状が悪化してしまった場合の支援制度について解説していきます。
働いていている人が病状の悪化や休職期間満了のため退職せざるを得ないケースでは、ご自身の社会保険(健康保険・厚生年金)を切り替える必要があります。
親族の扶養に入ることができれば、健康保険と国民年金の保険料負担が発生しません。扶養に入る条件はちょっと細かいですが、全国健康保険協会HPを参照してください。また「社会保険・扶養条件」などのキーワードで検索すると詳しく説明しているページあります。
扶養に入れない場合は、自身で社会保険に加入し保険料を払う必要があります。
健康保険に関しては退職後2年間は任意継続被保険者として退職前の健康保険に継続加入することができます。ただし、在職時には保険料の半分を会社が負担していましたが、任意継続被保険者の保険料は被保険者の全額負担となります。任意継続被保険者の保険料計算はそれぞれの健康保険ごとに決まりがありますが、協会けんぽにおいては標準報酬月額30万円という上限が設けられており、収入が高い人や家族が多いケース(健康保険では加入家族の人数に関係なく保険料が決まる)では国民健康保険より任意継続被保険者を選んだほうが保険料負担が少なくなるケースがあります。退職前にご自身が任意継続被保険者を選んだ場合の保険料を加入している健康保険の保険者に確認するといいと思います。
国民健康保険は、前年の収入により保険料が変わってきますので、こちらも退職後の医療保険をどうするか検討している段階で、国民健康保険に加入した場合に家族全員で保険料がいくらになるか問い合わせてみるといいと思います。国民健康保険に扶養家族というものはなく、1人1人保険料を払う必要があり、家族が多いほど保険料が高くなります。
ただし、退職した理由や失業等で所得が大幅に減った場合などは保険料の減免措置が各市区町村ごとにあるので、詳細は各市区町村までお問い合わせください。保険料の減免措置は申請が必要となるので注意してください。
直接問い合わせをして、保険料等のメリット、デメリットを判断することがいいと思います
年金についても退職した本人とその扶養家族が20歳〜60歳まで場合は、国民年金に一人ひとり加入しなければなりません。令和2年度保険料は月額16,540円です。保険料は17,000円に改定率を乗じて計算します。令和3年度は月額16,610円になります。
国民年金の保険料についても、失業等により納付が困難な場合は免除制度があります。詳しくは日本年金機構HP「国民年金保険料免除」を参照してください。国民年金の保険料免除についても、自ら申請する必要があります。障害年金1級または2級の受給者は法定免除となり、保険料の納付が免除されます。
次に退職したときに気をつけたいことは、住民税です。住民税は前年の所得に対して徴収される仕組みになっています。具体的には前年の1月から12月までの収入に対して6月から翌年5月まで徴収されます。退職後に収入がない場合でも前年の1月から12月までに収入があれば課税される仕組みです。しかし、退職後に収入がない状態で住民税を納付することが難しい場合は住民税の減免制度がある市区町村が多いです。減免割合は各市区町村ごとに違うので一概には言えませんが、3割〜5割ほど納付が免除される自治体が多いです。住民税もがんが理由で離職した場合に減免措置がある自治体が多いです。
住民税の減免も自分から申請する必要があります。詳しくは、お住いの市区町村にお問い合わせください。
介護保険についてはこちらで詳しく説明しています。
もし、病院に入院しているときに介護状態になっていれば、退院してすぐに介護保険サービス(介護ベッドやヘルパーさんなど)を受けたい場合は、入院中から各市区町村の担当者に問い合わせをし介護認定を受ける手続きをしておくといいと思います。
退職後の雇用保険についてはこちらで詳しく説明しています。
雇用保険を受給することにより、障害年金の審査に影響を与える可能性があるので注意が必要です。
最後に介護休暇と介護休業について触れておきます。介護休暇とは、労働者に2週間以上の常時介護を必要とする家族がいる場合に、対象家族1人につき年5日まで取得することができます。介護休業とは、労働者に2週間以上の常時介護を必要とする家族がいる場合に、対象家族人1につき最大93日まで取得可能です。なお、最大3回にわけて取得することもできます。
ただし、注意が必要な点としては、この介護休暇や介護休業を使って対象家族を介護するには、介護休暇5日と介護休業93日では期間が短いことです。この期間が過ぎ介護状態が継続していたら、労働者は仕事を辞めざるを得ない状態になってしまいます。
基本的な考えとして、介護休暇と介護休業の期間は、第3者から受ける介護サービスを整えるための期間として捉えて、介護する側が仕事を再開した場合、自分がいなくても回る仕組みづくりをするための期間と考えるべきでしょう。介護離職という言葉を最近良く耳にしますが、そのような不本意な離職をなくすために、介護休暇・介護休業のような制度をうまく利用するといいと思います。
まとめ
がん患者が抱える不安は一人ひとり違うように、がん患者が使える支援制度も一人ひとり違います。しかも、ここにあげた支援制度の多くはがん患者が自ら申請しないと利用できないものが多いです。
今回は支援制度をタイムラインごと簡単に紹介しましたが、もっと詳しく知りたい制度があれば自分で調べることや、誰かに聞くことができます。このページではとりあえずこういう支援制度があることを知ってもらうことが目的なので、掘り下げてはいないのでご容赦ください。
闘病中不安なことがあれば、病院のがん相談支援センターにいったり、がん情報サービスの「がん情報サービスサポートセンター」などに電話するのもいいと思います。日本対がん協会でも「がん無料相談」を実施しています。もちろん、当事務所の無料相談を使っていただいてもいいです。そうすれば、不安を解消するためのヒントをもらえるかもしれません。
がんで不安を抱えている人を無料でサポートしてくれる人的支援はたくさんあるので、ぜひ活用してください。
不安を少しでも解消していくことにより、がん患者さんが自分らしく生きることに繋がればと思っています。