がんの中でも、特定の臓器や組織などに、明らかな塊として認められる「固形がん」と塊を作らず個別に血管やリンパ組織内に発生する造血組織の異常よる「血液がん」とは区別されています。
「血液がん」とは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などであり、障害年金の認定基準においても、「固形がん」と「血液がん」では別の認定基準が設けられています。
今回は「血液がん」の認定基準について説明します。
固形がんと血液がん
がんは、がんが発生した細胞の種類によって、固形がんである癌腫や肉腫、血液がんなどの種類に分類されます(表1)。
血液がんとは
血液がんは造血器腫瘍と呼ばれ、造血幹細胞が「がん化」したもので、その種類は多岐に渡ります。大きく分類すると、「白血病」「悪性リンパ腫」「多発性骨髄腫」分けられ、それぞれのがん腫により原因や治療法は異なります。
血液がんのそれぞれの詳しい説明は、「がん情報サービスの血液・リンパ」をご覧ください。
造血幹細胞から血液細胞への分化を図解すると下図のようになります。
白血病とは
白血病は、「血液細胞」が骨髄でつくられる過程でがん化することによって起こります。「造血幹細胞」や「前駆細胞」に遺伝子変異が起きたことによって生じる「白血病細胞」が骨髄で異常増殖することで正常な血液細胞の増殖・機能を阻害し、骨髄にとどまることなく、抹消血中にもあふれ出てきます。
造血幹細胞は、血液を構成する細胞になら何にでもなれる多様性を有した幹細胞で、赤血球、白血球、リンパ球、血小板は、この造血幹細胞から分化して発生します。
その機能が白血病細胞によって阻害されるため、白血病患者さんでは、酸素を運ぶ役割を担っている赤血球の働きを阻害することで貧血になったり、白血球は感染症から体を守る役割を担っていますので感染症にかかりやすくなったりします。
白血病の種類についてはがん情報サービス「白血病の分類」をご覧ください。
悪性リンパ腫とは
悪性リンパ腫は、血液細胞に由来するがんの1つで、白血球の1種であるリンパ球ががん化した病気です。全身のいずれの場所にも病変が発生する可能性があり、多くの場合は頸部、 腋窩、 鼠径などのリンパ節の腫れが起こりますが、消化管、眼窩、肺、脳などリンパ節以外の臓器にも発生することがあります。
悪性リンパ腫は100種類以上に細かく分類されており、詳細はがん情報サービス「悪性リンパ腫の種類」をご覧ください。
多発性骨髄腫とは
多発性骨髄腫は血液がんの一種であり、血液細胞の1つである「形質細胞」ががん化します。形質細胞は、骨髄と呼ばれる「血液の工場」でつくられる血液細胞のうち、白血球の一種であるB細胞から分かれてできる細胞です。形質細胞ががん化した骨髄腫細胞は、身体のいたるところでの骨髄で異常増殖し、さまざまな症状(合併症)が発生します。詳細はがん情報サービス「多発性骨髄腫について」をご覧ください。
血液がんの認定基準
血液がんの認定基準は「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」の第14章「血液・造血器疾患による障害」に記載されています。
障害状態の基本
国年令別表、厚年令別表第1及び厚年令別表第2に規定されている障害状態の基本は、固形がんと同じで次のとおりです。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常のほとんどがベッドでの生活と同程度以上と認められる状態であって、日常生活がおおむね寝たきり程度のもの |
2級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、必ずしも家族の助けを借りる必要はないが、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
3級 | 身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの |
一般状態区分表
診断書の重要項目である一般状態区分表についても固形がんと同じで次のとおりです。
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふる まえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業は できるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、 軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能とな ったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、 活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
等級の例示
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | A表 Ⅰ 欄に揚げるうち、いずれか1つ以上の所見があり、B表 Ⅰ 欄に掲げるうち、いずれか1つ以上の所見があるもので、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 | A表 Ⅱ 欄に揚げるうち、いずれか1つ以上の所見があり、B表 Ⅱ 欄に揚げるうち、いずれか1つ以上の所見があるもので、かつ、一般状態区分表のエ又はウに該当はするもの |
3級 | A表 Ⅲ 欄に揚げるうち、いずれか1つ以上の所見があり、B表 Ⅲ 欄に掲げるうち、いずれか1つ以上の所見があるもので、かつ、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの |
A表
区分 | 臨床所見 |
Ⅰ | 1 発熱、骨・関節痛、るい痩、貧血、出血傾向、リンパ節腫脹、易感染症、肝脾腫等の著しいもの 2 輸血をひんぱんに必要とするもの 3 治療に反応せず進行するもの |
Ⅱ | 1 発熱、骨・関節痛、るい痩、貧血、出血傾向、リンパ節腫脹、易感染症、肝脾腫等のあるもの 2 輸血を時々必要とするもの 3 継続的な治療が必要なもの |
Ⅲ | 継続的ではないが治療が必要なもの |
B表
区分 | 臨床所見 |
Ⅰ | 1 末梢血液中のヘモグロビン濃度が7.0g/dL未満のもの 2 末梢血液中の血小板数が2万/μL未満のもの 3 末梢血液中の正常好中球数が500/μL未満のもの 4 末梢血液中の正常リンパ球数が300/μL未満のもの |
Ⅱ | 1 末梢血液中のヘモグロビン濃度が7.0g/dL以上9.0g/dL未満のもの 2 末梢血液中の血小板数が2万/μL以上5万/μL未満のもの 3 末梢血液中の正常好中球数が500/μL以上1,000/uL未満のもの 4 末梢血液中の正常リンパ球数が300/μL以上600/μL未満のもの |
Ⅲ | 1 末梢血液中のヘモグロビン濃度が9.0g/dL以上10.0g/dL未満のもの 2 末梢血液中の血小板数が5万/μL以上10万/μL未満のもの 3 末梢血液中の正常好中球数が1000以上/2000/uL未満のもの 4 末梢血液中の正常リンパ球数が600 /μL以上100 /μL未満のもの |
血液・造血器疾患の主要症状と検査項目
血液・造血器の主要症状としては、顔面蒼白、易疲労感、動悸、息切れ、発熱、頭痛、めまい、知覚異常、紫斑、月経過多、骨痛、関節痛等の自覚症状、黄疸、心雑音、舌の異常、易感染性、出血傾向、リンパ節腫脹、脾腫等の他覚所見がある。
検査としては、血球算定検査、血液生化学検査、免疫学的検査、鉄代謝検査、骨髄穿刺、リンパ節生検、骨髄生検、凝固系検査、染色体検査、遺伝子検査、細胞表面抗原検査、画像検査(CT検査・超音波検査)等がある。
検査成績について
検査成績は、その性質上変動しやすいものであるので、血液・造血器疾患による障害の程度の判定に当たっては、最も適切に症状をあらわしていると思われる検査成績に基づいて行うものとする。
特に、輸血や補充療法により検査数値が一時的に改善する場合は、治療前の検査成績に基づいて行うものとする。
造血幹細胞移植の取扱いについて
ア:造血幹細胞移植を受けたものに係る障害認定に当たっては、術後の症状、※1移植片対宿主病(GVHD)の有無及びその程度、治療経過、検査成績及び予後等を十分 に考慮して総合的に認定する。
イ: 慢性GVHDについては、日本造血細胞移植学会(ガイドライン委員会)におい て作成された「造血細胞移植ガイドライン」における慢性GVHDの臓器別スコア 及び重症度分類を参考にして、認定時の具体的な日常生活状況を把握し、併合(加 重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に認定する。
ウ: 障害年金を支給されている者が造血幹細胞移植を受けた場合は、移植片が生着し、 安定的に機能するまでの間を考慮して術後 1 年間は従前の等級とする。
まとめ
血液がんは多種多様であり、一概に語ることはできず、血液がんの種類による差異もあるが、個人差も大きく現れます。また、臨床における症状、検査所見も様々です。障害年金の認定にあたり、大事なのは一般状態区分表であることは間違いないが、認定基準のA表・B表のどこに該当するのかも大事になってきます。
それ以外にも、一般検査、特殊検査及び画像診断等の検査成績、病理 組織及び細胞所見、合併症の有無とその程度、治療及び病状の経過等を参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定することは固形がんと同じです。
結局、総合的というマジックワードが、認定基準を曖昧にしていることも固形がんと同じになっています。
ただ、数値的な判断基準がA表によりいくつか示されているので、そこに該当すれば受給できる可能性も高くなると思うので、血液検査の数値や輸血の回数、造血幹細胞移植については診断書に詳しく記載してもらう必要あります。
血液がんと固形がんでは認定基準が多少違うので、固形がんでは記載する必要がない箇所にも診断書の記載が必要になります(血液検査など)。しかし、一般状態区分表を軸として診断書を内容を固めていくことは同じなので、主治医には自分の症状をしっかり伝え、それを反映した診断書を書いてもらいましょう。