共同代表理事の山口です。
前回までブログで、ランダム化の話をさせていただきました。
臨床試験では比較が大事であり、理想の比較を行う最強の方法論がランダム化です。
ランダム化臨床試験においては、比較したい治療法などは個人単位で割り付けがなされるのがほとんどかと思います。
一方で、クラスターランダム化とは、家族、学校、職場、地域など、割り付けがクラスター(グループ)単位であることが大きな特徴です。例えば、ダイエットメニューの評価であれば家族ごとに異なるメニューを割り付ける(家族内で同じメニューを実行する)、禁煙プログラムの評価は学校単位の割り付け(同じ学校の生徒はすべて同じプログラムを実施する)、マスメディアを利用した健康教育プログラムであれば地域(メディア発信)単位の割り付け(地域が同じであれば同じプログラムを受ける)となります。
本邦において、乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験 (J-START) はこのクラスターランダム化デザインで実施されました(正確にはクラスターランダム化と個人単位のランダム化の両方が用いられています)。クラスター単位でしか効果が検討できない状況(例えば、前述のマスメディアを利用した健康教育プログラムの評価など)やクラスター単位の介入の方が実行しやすい(例えば、前述のダイエットメニューの評価など)などに適したデザインです。近年、様々なケアや治療介入などの普及・実装のための研究においてこのクラスターランダム化デザインの有用性が議論されています。小生がまだ若かりし20年前は、地域ケア介入や精神療法などの研究において、クラスターランダム化デザインが適用できないかどうか相談を受けることがありましたが、近年は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)やがんのがん支持療法、緩和ケア、心のケアに関する研究などにおいて積極的に用いられるようになっています。ある施設はアプリを利用する別の施設はしない、特定の施設にパンフレットを配布するしないなど、介入する施設しない施設をランダムに決めるイメージです。
個人ごとでなく、グループあるいはコミュニティなどを単位として行われる理由を以下にまとめます。
まず、個人単位での介入がそもそも不可能な場合が挙げられます。マスメディアを用いた禁煙教育プログラムなどがこれに相当します。次に、介入の対象者を(ある疾病を発生するリスクが高い対象者などに)限定するよりも、コミュニティ全体に対して介入を行い疾病の発生を予防した方がより効果的な場合があります。また、個人ごとに介入を行い行動の変化を促すよりも、コミュニティの物理的・社会的・法的な環境を介入により変化させることで、より疾病発生を予防出来る可能性もあります。これは、例えば、未成年の喫煙をやめさせるのに個人個人に健康教育を行い意識を変えさせるよりも、たばこの自動販売機をその地域から無くしてしまうような介入を行う場合が相当します。最後に、介入による社会的な影響やコミュニティ内での他人との交流により、健康に関する行動に変化が生じる可能性があります。この点については、若干補足が必要です。例えば、個人単位で介入を行い、複数の介入の効果を比較するとしよう。異なる介入が行われている個人同士に交流があった場合、他人が受けている介入の内容を知ることなどによりその個人の結果に影響が及ぶ可能性がある。これは、混交 (contamination) と呼ばれる現象であり、混交を避ける意味でグループ単位で介入を行う意義が認められる場合もあります。
同一グループ内の個人は、社会文化的な環境を共有しており、また、相互に交流があることから、様々な面で似ています。何らかの介入を行って得られる結果も似通ったものとなるでしょう。そのため、統計学的には、通常の個人単位の割り付けと比してより多くのサンプルサイズが必要となること、解析方法が複雑になることなどが知られています。