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臨床試験のお話 (e)PROについて

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共同代表理事の山口です。
  
Nature MedicineにPROに関するCorrespondenceが掲載されておりました。
  
https://www.nature.com/articles/s41591-021-01275-z?s=03
  
Dr. Ethan Baschは一連の研究で、がん治療の安全性評価には患者の声が反映されていない、すなわち、医療従事者による評価(頻度、重症度)は患者の評価に比し対的に過小評価する傾向にある、PRO(Patient Reported Outcome、患者報告アウトカム)はより早期の症状スクリーニングの可能性がある、観察可能な症状に関しては一致度が高いが主観的な要素を含む反応に関しては一致度が低い、など、医療者と患者における有害事象評価の解離があり、医療者による評価では不完全であることを示しています。なぜ解離が生じるのか?医療者側、患者側、双方に原因があり、医師・患者関係、医療環境、文化的背景などが密接に関連していると思われます。患者中心の治療法開発、患者中心の医療という方策のなかで、臨床試験ひいては日常臨床での有害事象評価に積極的にPROを取り込んでいく必要性が認識されつつあります。「個々の主観的経験を報告するのに最適であるのは患者、これを疾患の観点から説明するのに最適なのは医師、両者は相補的と考えるべきであろう。」、これは前述のDr.Baschの言葉です。
  
Dr.Baschらは、患者の日常生活時において様々な症状のモニタリングをリアルタイムに行い、一定の有害事象が生じた場合には、医療者からプロアクティブに症状モニタリングすることによって、患者のQOLが向上し、さらには生存期間の延長につながることを明らかにしました。この報告は、外来という来院がない状況であっても、有害事象評価を実施する双方向コミュニケーションを成立させるシステムを構築することが、患者アウトカムに大きな影響を与えるということで大きく注目されました。今後、モバイルヘルスによって収集するPGHD (Patient Generated Health Data) と合わせ、患者さんの症状等のスクリーニングやモニタリングのツールとしてのPROの利用が促進され、治療の意思決定に関する情報提供が行われることで、患者と医療者のコミュニケーション促進ツールになりうる可能性を十分に秘めています。
  
では、本邦での状況はどうでしょうか?PROの有用性に関するこれまでの報告は、ほぼすべて海外のものです。(e)PROの普及と実装にはいくつかの課題があると思っています。そもそも医療者、患者さんを含む一般の方々の認知不足、エビデンスの不足(臨床試験・臨床研究および実臨床における有効性の評価)、医療者の負担回避、小児・青少年(7歳-17歳)あるいは代理人用の(e)PROなどです。医療者側が(e)PROを患者にどう説明し、どう利用していくのか?患者ができることは何か?先に挙げた論文では、(e)PROの利用に関する倫理ガイドラインの必要性を訴えていますが、本邦では、それ以前に(e)PROの利用に関するガイドラインもありません(現在、厚労班研究にて取り組まれています)。まだまだこれからですが、様々なステークホルダーを巻き込んで前進したいと思っています。
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