がんでの障害年金認定基準は外部障害や精神障害・知的障害にくらべて、とてもわかりにくいです。わかりずらく、曖昧な認定基準ががんで障害年金を受給する難しさに繋がっている思います。がん障害年金の支給決定率が低いことは「最新統計から見る障害年金〜がん障害年金を受給するのは難しい〜」をご覧ください。今回はがんでの障害年金認定基準をわかりやすく説明します。
がんでの認定基準
がんでの障害年金の認定基準
がんでの障害年金の認定基準は国民年金・厚生年金保険 障害認定基準における第16節の「悪性新生物による障害」により次のように規定されています。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常のほとんどがベッドでの生活と同程度以上と認められる状態であって、日常生活がおおむね寝たきり程度のもの |
2級 | 身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、必ずしも家族の助けを借りる必要はないが、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの |
3級 | 身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの |
悪性新生物による障害の程度は、組織所見とその悪性度、一般検査及び特殊検査、画像検査等の検査成績、転移の有無、病状の経過と治療効果等を参考にして、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活のようを弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とするものを2級に、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものと認定する。
がんでは障害状態要件に該当しない障害手当金
障害手当金とは
障害年金において、障害手当金を受給される方の割合は、平成28年度厚生年金保険・国民年金事業報告によると、障害厚生年金の新規裁定者数32,706件のうち188件であり、わずか0.57%とかなり少ないのが現状です。
がんにおける障害手当金の認定基準は定めらていないので厚生年金保険法施行令の別表第二、障害手当金の認定基準を準用します。障害状態が22あげられておりその状態に該当する必要があります。
ただし、障害手当金は「5年以内に治っている」ことが条件となっていて、進行する病気であるがんにおいては「5年以内に治っている」との条件を満たすことは、手術で完治したが後遺症が残る等の一部を除いて、医学的見地から難しいです。
さらに国民年金・厚生年金保険 障害認定基準において、「傷病が治らないもの」については、障害手当金に該当する程度の障害の状態である場合であっても3級に該当すると定めらているので、がんにおいて障害手当金の受給を希望して、障害年金を申請することは基本的にはないと考えています。
がんでの認定ポイント
また、がんでの障害年金認定基準、国民年金・厚生年金保険 障害認定基準における第16節の「悪性新生物による障害」
の認定要領において次のように記載されています。
- がんは全身のほとんどの臓器に発生するため、現れる症状は様々であり、それによる障害も様々であるため認定には総合的な判断が必要。
- 客観的資料として参考にするのは、一般検査の他に組織診断検査、腫瘍マーカー検査、超音波検査、X線CT検査、MRI検査、血管造影検査、内視鏡検査等がある。
- がんによる障害は、次のように区分する。
ア がんそのもの(原発巣、転移巣含む)によって生じる局所の障害
イ がんそのもの(原発巣、転移巣含む)による全身の衰弱又は機能の障害
ウ がんに対する治療の効果として起こる全身衰弱又は機能の障害
上記1,2,3を要約すると、客観的資料を参考にして、がんそのもの又は治療によって生じた障害をすべて対象として、総合的に障害状態を判断するということです。
アの局所の障害であれば、認定基準がしっかり決まっており、障害状態によりどの障害等級に該当するかが、請求するまえからある程度想像がつきます。しかし、がん(悪性新生物)の場合、局所の障害だけで判断されることは、手術後の後遺症(声帯摘出による音声・言語機能の障害、舌全摘によるそしゃく機能の障害などの外部障害)以外ほとんどありません。がんでの障害年金の多くのケースにおいて、局所の障害だけでなく、イとウの全身状態を考慮して、総合的に判断するということになります。
そのため、がんでの障害年金の認定基準、国民年金・厚生年金保険 障害認定基準における第16節の「悪性新生物による障害」、認定要領には次のようにも記載されています。
悪性新生物による障害の程度の認定例は全身衰弱と機能障害とを区別して考えることは、悪性新生物という疾患の本質から、本来不自然なことが多く、認定に当たっては組織所見とその悪性度、一般検査及び特殊検査、画像診断等の検査成績、転医の有無、病状の経過と治療効果等を参考とし、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に判断する。転移性悪性新生物は、原発とされるものと組織上一致するか否か、転移であることを確認できたものは、相当因果関係があるもとの認められる。
がん障害年金の難しい一番の理由が、がんでの状態を「総合的に判断する」ことです。
がん以外の障害の認定基準
外部障害の場合、目の障害や肢体の障害などの障害認定基準を見ていただければわかると思いますが、認定要領が具体的に記載されており、障害状態を判断しやすいです。
精神障害・知的障害においては、以前から認定基準のあいまいさが指摘され、審査結果の不公平感が問題となっていました。その結果、厚生労働省は『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』を策定し、平成28年9月1日から運用されています。以下、通達の引用です。
障害基礎年金や障害厚生年金等の障害等級は、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」に基づいて認定されていますが、精神障害及び知的障害の認定において、地域によりその傾向に違いが生じていることが確認されました。
こうしたことを踏まえ、精神障害及び知的障害の認定が当該障害認定基準に基づいて適正に行われ、地域差による不公平が生じないようにするため、厚生労働省に設置した「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」において、等級判定の標準的な考え方を示したガイドラインや適切な等級判定に必要な情報の充実を図るための方策について、議論がなされました。
今般、当該専門家検討会の議論を踏まえて、精神障害及び知的障害の認定の地域差の改善に向けて対応するため、厚生労働省において、『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』(PDF 6,597KB)を策定し、平成28年9月1日から実施することとされました。
また、適正な等級判定に必要となる情報の充実を図るため、厚生労働省において、「診断書(精神の障害用)の記載要領」(PDF 11,615KB)及び「日常生活及び就労に関する状況について(照会)」(PDF 478KB)を作成し、ガイドラインの実施とあわせて実施することとされました。
精神・知的障害においては、新たなガイドラインにより認定基準が明確化されたと言われています。
障害年金はがん患者が受給することを想定していない
障害年金の診断書は障害ごとに分かれており、全部8様式あります。
がん障害年金の診断書は「血液・造血器・その他」診断書を使います。この診断書はがん専用のものではなく、がんは『その他』のなかに含まれています。がん専用の診断書ではないので、がんでの症状をわかりやすく伝えられるものになっていません。
がんの認定基準はブラックボックス??
精神・知的障害においては、新たなガイドラインにより認定基準が明確化されたと言われています。
それに対して、がんの認定基準はどうでしょう?わかりにくいですよね。
がん(悪性新生物)の認定基準は、はっきりいってブラックボックスです。不支給決定をしても「総合的に判断する」という言葉を隠れ蓑に言い訳がいくらでもできる状態です。認定基準があいまいなので、当然審査する認定医により決定内容に差が出てくる、以前の精神・知的障害と同じ状況が続いていると言っていいでしょう。
2つ以上の障害があるとき
障害認定日(事後重症の場合は請求日)に2つ以上の障害があるときは大きく併合認定と総合認定という方法がとられます。
障害認定日において、対象となる局所の障害が2つ以上ある場合、併合認定という方法がとられます。1つひとつの障害の程度を評価してから、2つ以上の障害をあわせて等級を決定する方法です。
この場合、国民年金・厚生年金保険 障害認定基準の、併合認定基準にそれぞれの障害の程度をあてはまれば、等級が自動的に決定するため、2つ以上の障害があっても非常にわかりやすいです。いうなれば、書類を作成する側(請求者、または社会保険労務士)も、併合認定基準にあわせてピンポイントで障害状態を証明する書類を作成すればよく、また、審査する認定医も併合認定基準にあわせて審査するので、論点が非常に明確です。
障害認定日において、内部障害を含む2つ以上の障害が併存している場合は、総合的に見て等級を判断する、総合認定がとられます。なぜなら、併合認定基準をあてはめることができないからです。精神障害が複数ある場合や内科的疾患が併存している場合、総合認定になります。がん(悪性新生物)の場合も局所の障害で認定されるもの以外は総合認定になる場合が多いです。精神障害が複数ある場合は、先述した平成28年の『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』に障害等級の目安が記載されており、その目安を参考に等級を決めるので精神障害が併存していても、判断しやすくなったと言われています。
しかし、がんの場合の総合認定がブラックボックスであることは変わりません。
がん患者も精神・知的障害と同じくらい障害年金を請求するようになれば、少しは変わるのかもしれません。
がん(悪性新生物)おける注意点
がん(悪性新生物)の請求書類を作成するときに、このあいまいな認定基準をしっかりおさえた上で、医師に診断書を記載してもらい、病状・就労状況等申立書を作ることが極めて大事になってきます。年金事務所で取り寄せた診断書をそのまま医師に渡すだけでは、がんにおける認定基準を満たす内容をすべてを記入してもらうことは難しいです。だいたい、がんで使う診断書(血液・造血器・その他の障害用の診断書)にそんなに障害状態を記入するところないですし・・・。この診断書から、がん患者に障害年金を受給してもらおうという気持ちはまったく感じられないです。さらに、がんで障害年金の診断書作成に慣れている医師は少ない。なぜ障害年金の診断書作成に慣れている医師が少ないかというと、がん患者が障害年金の請求手続きをすることが少なく、がん患者が医師に診断書作成を依頼することが少ないからです。当然、障害年金におけるがん(悪性新生物)でのがんの受給割合は低くなっております。
診断書依頼時には記載してほしい自身の症状をしっかりと医師に伝えることが重要になってきます。しかし、がんでの診察は待ち時間も長く診察時間も短いのが一般的です。そして、医師は多くの患者さんの診察をしないといけないので、常に忙しそうです。普段の短い診察で、意外と出来ていないのが、自身の症状を正確に医師に伝えることです。症状を正確に伝え、医師に診断書を記載してもらうことは、がんでの短い診察では簡単なようで難しいことです。がん患者からの相談で「主治医とのコミュニケーションがとれているか不安」という声は非常に多いです。
診断書にがんによる症状のすべてが記載されていないと、障害年金の審査を担当する認定医からは、実際の状態より軽いと判断され、障害年金の受給に大きな影響を与えてしまいます。このことはがんでの障害年金受給を難しくしているひとつ要因だと考えれます。
がんでの障害年金等級を決める一般状態区分表とは
がんでの障害年金の受給の可否や等級を決めるためのいちばん大事な書類は、医師が作成する診断書です。がんでの診断書において、基本的には「診断書様式120号の7 血液 造血器 その他障害用」の診断書を使います。その中でも、とりわけ大事になところが、一般状態区分表です。
↓↓↓実際の診断書です。
診断書においてア〜オのどれに○がしてあるかがとても大事です。
一般状態区分表について、認定基準において以下のように定めれています。
区分 | 一般状態 |
ア | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふる まえるもの |
イ | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業は できるもの 例えば、軽い家事、事務など |
ウ | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、 軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
エ | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能とな ったもの |
オ | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、 活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
区分においての障害等級は以下のように定めれています。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 著しい衰弱又は障害のため、一般状態区分表のオに該当するもの |
2級 | 衰弱又は障害のため、一般状態区分表のエ又はウに該当するもの |
3級 | 著しい全身倦怠のため、一般状態区分表のウ又はイに該当するもの |
一般状態区分表がオの場合は1級の可能性。
一般状態区分表がエまたはウの場合は2級の可能性。
一般状態区分表がウまたはイの場合は3級の可能性。
一般状態区分表だけで障害年金の受給や等級が決定する訳ではく、もちろん、診断書の他の項目や病歴・就労状況等申立書の内容も大事になってきます。ただし、一般状態区分表が最重要であることは間違いありません。
一般状態区分表と PS(Performance status)
がん患者の方で自身の病気について勉強されている方は、障害年金診断書の「一般状態区分表」を見て、なんか見たことある・・・・と思うかもしれません。 PS(Performance status)です。PS(Performance status)とは全身状態を表す医療用語で医師であればほぼ全ての医師が知っている言葉です。。詳しくはリンクから国立がん研究センターがん情報サービスを参照してください。
この PS(Performance status)を判断基準にして、患者さんが手術や抗がん剤の治療に耐えることができるか、または、抗がん剤の副作用により、PS(Performance status)が落ちたときには、投与を中止するなどの判断をします。
抗がん剤の副作用のみで2級の認定をほしいために、医師にエを○するようお願いする社労士さんがいますが、エということは、PS(Performance status)でいえば3にあたり、抗がん剤によっては投与を中止するレベルです。抗がん剤の副作用を医師がコントロールできていないと証明することになり、医師のプライドを傷つける可能性もあります。
もちろん、同じ薬でも患者さん一人ひとりにより副作用は違いますが。抗がん剤の種類により一般的にはどのような副作用を引きおこすかなどは、がんの障害年金を代理申請する社労士であれば知っておくべきです。近年は細胞殺傷性の抗がん剤だけでなく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など様々な薬剤があり、それぞれ副作用は違いますし特徴は様々です。
がんの障害年金申請にあたり重要になってくるのは、それぞれの病状や薬剤の副作用を理解した上での申請です。がんを社会保険労務士に依頼する場合は、このようなことを熟知した社会保険労務士に依頼することにより、認定の有無や等級に差が出てきます。
まとめ
外部障害においては、局所の障害のみで障害状態を判断して、複数障害がある時は認定基準がしっかり決まっている併合認定がとれらます。それに対してがんの場合は原発巣と転移巣のように複数の障害があっても、総合的に判断する総合認定がとられます。このことにより、診断書と病状・就労状況等申立書の内容がより重要になってきます。言い換えれば、提出書類の書き方により障害年金の受給や障害等級に差が出やすい、それががんでの障害年金です。
認定基準における最重要ポイントである一般状態区分表が、医療用語 PS(Performance status)とほぼ同じであることと、医師には患者さんの全身状態を良い状態に保つ責任があることも理解しておく必要があると思います。その上で診断書を医師に作成依頼をして、病歴・就労状況等申立書を自身の病状とがんの認定基準に沿って作成していくことがとても大事になります。