共同代表理事の山口です。
英国政府は、2020年10月20日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発を後押しする目的で、ヒトでのチャレンジ試験を英国内で実施するため、産官学が協力すると発表しました。
ロイター
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-vaccine-challenge-idJPKCN25A2DB
日経バイオテク
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/10/22/07512/
nature
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02821-4
ワクチン候補接種後に実際の病原体である微量の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2ウイルス)を鼻腔投与し、経過を観察、ワクチン候補の有効性と安全性を評価します(人チャレンジ試験)。このような試験については以前から話題になっていました。
みなさんはこのような試験の実施についてはどう思われますか?
WHOは、COVID-19ワクチン開発のための人チャレンジ試験が許容される倫理基準について示しています。ガイダンスでは、8つの主要な基準として、
(1)強い科学的正当性
(2)リスクと潜在的ベネフィットの合理性
(3)一般市民や専門家、政策立案者への通知と相談
(4)試験関係者や規制当局、政策立案者間での緊密な調整
(5)科学、臨床、倫理面で試験を遂行できる施設の選択
(6)リスクを抑え、最小化するための被験者の選択
(7)独立した専門委員会による審査
(8)厳格なインフォームドコンセント
を挙げ、こうした基準が満たされれば、ヒトでのチャレンジ試験を実施し得るとの見解を示しています。
日本疫学会の説明がわかりやすので、ぜひ読んでみてください。
https://jeaweb.jp/covid/glossary/kaisetsu-1.pdf
今回のブログでは、(2)のリスク・ベネフィット評価について考えたいと思います。
米国でのタスキギー梅毒実験の反省にもとづき、生物医学および行動学研究の対象者保護のための国家委員会 (National Commission for the Protection of Human Subjects of Biomedical and Behavioral Research) によって作成された報告書であるベルモント・レポートは、ヒトを対象とした研究のための倫理的原則とガイドラインを要約したもので、米国の臨床試験において被験者を保護する原則として最も基本的で重要なものとされていますが、同レポートでは、リスクやベネフィットに関する情報やデータを収集し、それによって福利の尊重の観点から研究が適切に設計されているかを評価することが求められています。患者さんらは、それらの情報に基づいて、当該の臨床試験に参加するかどうか決めるわけです。
http://cont.o.oo7.jp/28_3/p559-68.html
最終的に、研究を正当化できるかの評価にあたっては
リスクは、研究の目的を達成するのに必要な範囲まで減少させるべきである。リスクはおそらく完全に取り除くことはできないだろうが、他の治療法の選択肢を注意深く考慮することで減らすことができる場合が多い。
研究にともなうリスクとベネフィットは、インフォームド・コンセント のプロセスにおける文書と手順におい、くまなく列挙されていなければならない。
とあります。被験者があえて新型コロナウイルスの曝露を受けることのリスクを正確に理解しているかどうか?ICにてきちんと説明がなされ、それを被験者が理解しているかどうかはきちんと確認しないといけません。
さらに、
弱者が研究の対象となるとき、そうした人々が参加すること自体の適切性が証明されねばならない。そうした判断についてはいくつもの変数が含まれる。リスクの特質と程度、対象となる特定の母集団の条件、期待される利益の特質と水準、などである。
ともあります。経済的な弱者を金銭的なインセンティブによって試験参加に誘導するような仕組みになっていないかどうかは、重要な観点だと思います。
重要な点は、当たり前ですが、
研究のリスクとベネフィットは、個々の被験者、その家族、社会全般(あるいは社会の中で被験者の属する特定の集団)に影響を及ぼすかもしれない。
ということです。どの立場からのリスク・ベネフィット評価なのか?研究のもたらす結果により社会が得られる(と期待される)ベネフィットが被験者リスクよりも優先されることが多いと思いますが、被験者の権利をどう考えるのか。
みなさんが倫理員会の委員長で、人チャレンジ試験の審査がきたら、どう評価されますか?承認します?
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