共同代表理事の山口です。
米製薬大手イーライリリーは13日、
新型コロナウイルス感染症 (COVID19) 抗体治療薬の臨床試験で
被験者の登録を停止したことを明らかにしました。
安全性への懸念が理由のようです。
YAHOO!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/72cc2bd2553a8cf0a7738962a7edfafcd8d098d1
ロイター
https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-eli-lilly-idJPKBN26Y2ZO
ロイターの記事を見ると、
イーライリリーの抗体医薬品「LY-CoV555」 は米政府の支援対象。
イーライリリーの広報担当者は「データ安全性監視委員会 (DSMB) は十分な慎重性を期すため、
参加者募集の一時中断を助言した」とし、
「イーライリリーは治験参加者の安全を守るため、DSMBの決定を支持する」とした。
とあります。
さて、みなさんは、「データ安全性監視委員会 (DSMB) 」
ってご存じでしょうか?
Data Safety and Monitoring Board
「データ安全性モニタリング委員会」、
がん領域では「効果・安全性評価委員会」と呼ばれることが多いです。
ICR臨床研究入門の用語集での説明は以下の通りです。
https://www.icrweb.jp/mod/glossary/view.php?id=29&mode=&hook=ALL&sortkey=&sortorder=&fullsearch=0&page=5
試験の科学性、倫理性をチェックし、
モニタリング・中間解析結果を検討のうえ、試験の継続、中止、計画の変更を勧告する
試験組織と独立した第三者委員会です。
特にがんのような致死性の疾患や試験期間が長期になるような臨床試験においては、
設置されることが多いです。
臨床試験について様々な側面からの評価判断が必要となりますので、
試験に関係の無いその領域の専門医師、倫理の専門家、統計学の専門家などが、
委員として加わります。
ちなみに、
モニタリングとは、試験の進捗状況を把握し、データの定期的な評価を行うことです。
中間解析とは、本来であれば、データが最終的にすべて集まったうえで統計解析を行いますが、
試験の途中で主として有効性のデータ(主要評価項目)を群間で統計学的に比較することです。
例えば、中間解析を実施し、
一方のグループが有効性で大幅に劣る
一方のグループが安全性で大幅に劣る
継続しても意味のある差は得られない
場合などは、試験を継続することが、参加者に対して著しく不利益をもたらし、倫理的に問題となります。
しかしながら、試験を実施運営する側は、
対象の治療法候補に期待をしている、研究したい人たちの集まりであり、
試験に関する様々な情報や途中の結果を知ってしまうと、
その後の試験運営に影響が出てしまう可能性があります。
試験途中で結果をみて判断してもよいですが、
ただし、誰がやってもいいわけではないのです。
運営側とは独立した第三者機関が必要なのはそのような理由からになります。
今回は特にCOVID-19治療薬候補ということで、緊急性が高い一方で、
有効性・安全性の(リスクベネフィット)評価を十分に考慮しなければならない臨床試験であり、
開発元のイーライリリー社も慎重な判断のうえ、DSMBの勧告に従ったと思われます。
おそらく、安全性データのモニタリングにおいて、懸念事項が認められたのでしょう。
詳細は不明ですが、賢明な判断かと個人的には思います。
ここで気に留めていただきたいのが、
DSMBの意思決定はあくまで
勧告
になります。最終的な判断は、当該試験の責任者やスポンサーなのです。
臨床試験に関するすべての最終的な責任は治験であれば製薬会社、
研究者が主導している治験であれば、研究代表者となります。
この点は十分にご理解いただけるとありがたいです。
このように、臨床試験の計画・実施においては、
科学性と倫理性を担保するための計画書の作成や研究の組織化が重要となります。
複雑で面倒と感じられるかもしれませんが、
すべては、より有効で安全に利用可能な治療法をより早く患者さんに届けるためです。
このブログでも、今後、様々な側面から臨床試験のお話を取り上げていきたいと
思います。