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何のため誰のための研究? ー ポビドン研究発表の医師 なぜ水うがいとの比較なし?に「ラフな研究、ご指摘の通り」 ー

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こんにちは、ヤマタクです。

8月5日(水)のFacebookでも言及しましたが、COVID-19対策にイソジンが効く、という臨床研究の結果が世間を騒がしておりますが、みなさんはどう思われておりますでしょうか?

主な結果は、下記に要約されています。
■(知事確認後)R2.8.4 知事会見フリップ (003).pptx[読み取り専用]
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/39143/00000000/hurippu.pdf?fbclid=IwAR2QovlN9Dns-EMyhhwPaNkn1wckMOlEmHHyj1Sa9BnE7Fg6sImjzqZYgRc

この記事を、どう解釈すればよいのでしょうか??まず解釈するために、臨床研究がどういったもので、それら研究はどのように計画されるのかを知る必要があります。

そもそも臨床研究とは?

「臨床研究」を知るためには、「臨床試験」「治験」「観察研究」などとの位置付けや違いを知る必要があります。「臨床研究 定義」でググると、最初に表示される、長崎大学病院 臨床研究センターのWebサイトには

人を対象として行われる医学研究のことで、 病気の予防・診断・治療方法の改善や病気の原因の解明、患者さんの生活の質の向上を目的として行われます

と記載されています。さらに読み進めていくと、臨床研究、臨床試験、治験の関係や違いについて説明があります。

臨床研究:人を対象として行われる医学研究
臨床試験:臨床研究のうち薬剤、治療法、診断法、予防法などの安全性と有効性を評価することを目的としたもの
治験:臨床試験のうち、新しい薬や医療機器の製造販売の承認を国に得るために行われるもの

引用:
長崎大学病院 臨床研究センター
http://www.mh.nagasaki-u.ac.jp/research/rinsho/patients/whats_qa.html

臨床試験や観察研究などの臨床研究により、治療法開発を含む医療の質の向上に必要な科学的根拠(エビデンスと呼ばれます)が作られます。では、臨床「研究」が行われ、その結果が全てエビデンスとして十分なんでしょうか?そんなわけないですよね。

エビデンスの強さは研究の質によって左右される

そりゃ、質が高い研究の方がいいに決まっている、みなさんもそう思いますよね?じゃあ、臨床研究の質って何でしょうかね?

現在ICH(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use(医薬品規制調和国際会議))という場で国際的に議論されている、臨床試験の一般指針ガイドライン(案)においては、

Fitness for purpose(目的への適合)
とあります。いかに目的を達せられたかどうか、ということです。単純で当たり前と思われるかもしれません。でも、これが国際基準なんです!

臨床研究が目的にかなって計画・実施されたかどうかは、
・データの測定や結果にバイアス(偏り)がないか
・参加者数を増やす、誤差の小さい評価項目を用いるなど、精密な研究が行われているかどうか
・これらを踏まえて、臨床仮説に対する一定の回答が得られているかが重要です。つまり「目的に沿った正しい結論を効率的に導くことができるか?」です。

より具体的には、①科学的、倫理的に研究が実施される
②データが正しく測定、報告される
③データが正しく解析される
④結果が適切に評価、解釈される

ことなどが重要な要因として挙げられるかと思います。いずれにせよ、まずは、研究の目的をきちんと把握することが大事です。

それでは、今回話題になっている“大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターによる新型コロナウイルス感染症患者に関する研究”についてはどうでしょうか?以下などを見ながら考えてみましょう。

引用:
■大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターによる新型コロナウイルス感染症患者への研究協力について
http://www.pref.osaka.lg.jp/kenisomu/povidon/index.html?fbclid=IwAR1riNFW87G2D_iNzAeNqAorTcRI9n0xJU8Xp57L91oW4bpK8DpPBFyiXL8http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/39143/00000000/povidon.pdf

■YAHOO!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/bad360cd33314890a9b0a286b45cc8d08424d44d?fbclid=IwAR3mvSpOZSy4TbDZi4uINERxXqr77qTJwBizYUfgWLk2MtbXDbpnW8VZrC4

臨床試験であれば、臨床試験登録という登録制度があり、我々臨床研究に携わっている人間はまずはそこを確認します。

今回は観察研究(後述)らしいので、登録はされていません。研究計画書も手に入らなかったので、目的は不明です。正直、発表資料等を見ても、よくわかりません。なので、“評価不可能”という判断をしますが、研究者の共同記者会見資料を見ると、「ポビドンヨード含嗽の重症化抑制にかかる観察研究」とあります。

う~ん、、、重症化抑制?

おそらく、イソジンうがい(口腔・喉の局所療法)が新型コロナに有効といえるのかなどが大雑把な目的でないかと思います。その上で、新型コロナ対策においてイソジンうがいの有効性・安全性などをどう測るのか、専門用語で、エンドポイント(評価項目)の設定が重要です。

今回の観察研究の結果だけを見ますとエンドポイントはウイルス陽性率、陽性頻度とあります。このエンドポイントが重症化抑制と結びつきますでしょうか?よくわからない。

研究の背景には

「SARS-CoV2 は口腔内でウイルスが増殖、唾液中にウイルス量が多い特性COVID-19 患者の唾液中ウイルス消失低減で、肺炎など重症化抑制可能と想定」とあります。

唾液中のウイルスが減る?ことが、臨床の重要な結果に結びつくのか?臨床の先生方のご意見を伺いたいところです。餅は餅屋、専門家で議論して、はじめて臨床研究のRationale(理論的根拠)が成り立つのですよん。(自分は、統計学の専門家です。なんちゃってですけど。はは。)

前述した観点から、もう少し細かく見ていくと、

①科学的、倫理的に研究が実施されている?
臨床研究の科学性の担保はもちろんですが、有効とも安全ともわからない治療法もどきを試すわけですから、臨床研究には従わなければならない法や指針(ガイドライン)などが存在します。臨床研究への参加者のリスク、社会的なリスクなどを考慮する必要があります。

本研究は、「観察研究」とありますが、1日4回と規定して(一般用)医薬品でうがいさせている点が、本当に観察研究でよいのかどうか(ここは一般論として議論が多いところなのですが)、気になりました。

アビガンに関する首相の発言でも「観察研究」は議論になりましたが、「観察研究」と位置づけた理由や合理的根拠について、研究者の考えを聞きたいところです。

ちなみに、観察研究とは、ざっくり、介入とか行わず、日常診療など通常行われている通りのセッティングでデータを測定する研究です。「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従って計画・実施する必要があります。

科学的な観点からは、大きなところで以下が気になります。

参加者の規準:明確な規準が不明瞭なので評価不可能。ホテル宿泊療養患者さんなので、軽症なのでしょうが、そもそも患者を被験者にする合理的な理由があるのかどうかです。予防でなく、重症化抑制という観点でしょうか?

比較対照:「うがいしていない人」との比較みたいですが、詳細不明なので評価不可能です。「イソジンうがいをする人」、「いない人」、どのように区別(グループ分け)されていたのか?実際のうがいの状況は?データを示していただけないと解釈できません。今回は、何かしらの臨床仮説があって、まずは探索的にデータをとってみよう、ということでしょうか。将来的には、ランダム化研究を見据えての研究?(いい意味でとらえれば、、、)

②データが正しく測定、報告される
③データが正しく解析されるこれらは、公表されている資料などからは、正直、まったくわかりません。評価不可能。

④結果が適切に評価、解釈されるここは凄く大事な点でして、研究者がいくら素晴らしい研究を行ったとしても、結果の提示の仕方、公表の方法に問題があれば、あるいは、関係者、患者、国民など、受け取り側が正しく結果を解釈できなければ、意味が無いわけです。そういう意味で、まだプレリミナリな発表かもしれませんが、今回の報道の仕方はほぼ最悪です。

ふざけている?のもいい加減にした方がよいかと、、、

YAHOOの記事に、今回の研究に関わった先生から、「研究としてラフ(雑、荒い)だということは、宮下先生のご指摘の通りでございます」と研究結果として発表するには「雑」であることを認めたとあります。

「ラフ」には様々な意味があるので、どのような意味で「ラフ」という発言をされたかわかりません。

研究には目的があって、“仮説形成や探索的な目的を含む臨床試験を計画・実施・報告する”のと、“「雑?」に研究を実施する”のとは、意味がまったく異なります。

探索的研究にもきちんと目的があります。すべて、最初から「イソジンうがいをする人」、「いない人」といったランダム化試験を行えばよいわけではありません。例えば、がんの標準治療はランダム化試験の結果にもとづいて決まりますが、いきなりランダム化試験を実施するわけではないですよね。ここは大きく勘違いするところです。

治療法の開発は、最初は、臨床家の臨床仮説から始まって、患者さんのケースレポート(症例報告)、患者さんのデータを蓄積してみてみる、探索的に前向きにデータをとっていく、、、ランダム化研究は最後の検証的な研究です。

それぞれの研究においては、必ずそれぞれ目的があるのです。「探索」と「雑」を一緒にしないで欲しいです。協力してくださる患者さん、国民に失礼ですよ。

最後に

イソジンうがいの研究について、私見を述べさせていただきました。結局は、研究計画書を見ないとわかりません。個人的には、真摯に研究を続けていこうと思いました。キャンサー・ベネフィッツが大事にしなければならない、情報発信の重要性も再認識しました。

結論

大阪府立病院機構大阪はびきの医療センターによる新型コロナウイルス感染症患者に関する研究については、評価不可能。

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